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熱光起電力(TPV:Thermo photo voltaic)発電

 太陽電池(PV:Photo voltaic)セルに光が入射するとPVセルのバンドギャップに相当するエネルギーを持つ光が吸収され電力に変換されます。通常の太陽電池セルを用いた発電では入射させる光として太陽光を用いていますが,その代わりに加熱した物体からの熱放射を光として用いるのが熱光起電力発電になります。

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TPV発電の概念図

 TPV発電は一般的になんらかの熱源を用いてエミッタと呼ばれる熱放射させる物体を加熱し,その熱放射光をPVセルに入射させます。熱源として工場のボイラーからの排熱,ガスバーナーの燃焼熱や集光太陽光を利用するなどさまざまな熱源を利用可能です。これがTPV発電の一つ目の長所となります。

 また,十分に加熱されたエミッタからPVセルへ入射される熱放射光の強度は太陽光の強度よりも非常に強いため,同じ発電出力を得るために必要なPVセルの面積を大きく減少させることが可能となり,PVセルもより高性能なものを用いることが可能となります。これがTPV発電の二つ目の長所です。

 このような長所をTPV発電は持っていますが,さらに,エミッタに熱放射スペクトルの制御技術を適用し,太陽電池セルが吸収する光を特に強く放射するようにした選択エミッタを用いることでTPV発電システムの効率を大きく改善できると我々は考えて研究を行っています。

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​選択エミッタによるTPVの高効率化

 我々はこれまで高効率な太陽電池セルであるInSbセルを対象に,このセルに最適な熱放射光を放出する選択エミッタの設計,試作そして検証を行っています。

 例えば二次元矩形構造を持つ単結晶タングステンからなる選択エミッタが900℃以上の高温で安定に作動すること,またGaSbセルの感度波長領域において0.8を超える高い放射率を示すことを明らかにしています。

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選択エミッタのSEM画像(左)と選択エミッタの放射率(右)

 そして試作した選択エミッタを用いたTPV発電システムとして熱源に太陽熱を利用したソーラーTPVシステム,ガスバーナーの燃焼熱を利用した2W級可搬型TPVシステムを試作し実証試験を行っています。

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​ソーラーTPV発電システム(左)2W級可搬型TPV発電システム(右)

高効率電子デバイス冷却技術

 コンピュータの高速化,コンピュータネットワークの拡大に伴う電子情報機器の消費エネルギーは過去数十年で飛躍的に増大しています。特にコンピュータの中枢部であるCPUの消費電力量の増加は著しいものです。例えば,20年前初期型のペンティアムが消費する電力は10W程度でしたが、現在はその10倍近い消費となっています。消費電力の増加は、それら電子情報機器からの発熱量増加を引き起こします。これらの電子情報機器の発熱量増加は、その性能に重大な影響を与えるばかりか,大規模なデータセンターの冷却は大きな社会的問題ともなっています。我々はこの電子情報機器の中枢部であるCPUと一連の電子デバイスを高効率で冷却することが可能となる新たな冷却技術を熱放射スペクトル制御技術を用いて開発しています。
 概念図に示すように電子デバイスは周りをエポキシなどの高分子材料である樹脂でパッケージングされています。通常,電子デバイスからの発熱はその樹脂を介して熱伝導などにより外界に放出されますが,樹脂には赤外線領域で特に吸収率が低い窓が存在しています。我々は,熱放射スペクトル制御技術によりこの窓から選択的に熱放射することで,樹脂を介さずに直接外界に放熱できる技術について研究を行っています。

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​高効率電子デバイス冷却の概念図

 図にはエポキシ樹脂の吸収率と通常の熱放射スペクトル,熱放射スペクトルを示しています。通常の熱放射スペクトルでは樹脂の窓部分以外にも強い放射がありますので,熱放射の大部分は樹脂に吸収されてしまいます,それに対して波長制御された選択エミッタからの熱放射では窓部分のエネルギーが強く,それ以外のエネルギーが弱くなっていますので,熱放射の大部分は樹脂に吸収されず外界に放出されます。我々はこのような特性を持つ選択エミッタの設計,試作そして単純化モデルを用いた実証研究を行っています。

​選択エミッタによる高効率TPV発電の概念図

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​熱ふく射スペクトルと樹脂の吸収率の関係

熱輻射の波動性に基づく電力変換技術

 光電変換デバイスとしては光の粒子性に基づく光起電力セルが一般的ですが、環境温度物体から主に放出される赤外光は光子エネルギーが低く光電変換は困難です。本研究開発では光を波動すなわち電磁波として捉え、生じる電場振動の整流によって電力抽出を可能とする光波発電を用いた光電変換を目指します。この原理に基づく電力変換はマイクロ波領域の電磁波に対しては93%という非常に高い効率で実証されていますが、赤外光の場合はテラヘルツ以上の周波数に応答可能な整流素子実現が課題となり、これまでの変換効率は約10-5%に留まります。

 そこで本研究開発では金属―誘電体―金属トンネルダイオード構造におけるトンネル障壁形状制御技術を駆使し、高効率な赤外光電力変換を可能とするダイオード開発および発電構造開発を行い、環境温度物体からの赤外光エネルギーハーベスティング技術の実現および将来的な超高効率太陽エネルギー変換技術への応用を目指しています。

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熱輻射の波動性に基づく電力変換技術の概要

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不定比性酸化物層の形成によるトンネル障壁形状制御

熱応答型省エネルギー窓ガラス

 一般家庭のエネルギー消費量は年々増加しており今では国内におけるエネルギー消費の?割を占めています。そしてそのエネルギーの多くは家屋の冷暖房のために消費されているため,家屋の冷暖房効率を改善する技術開発は非常に重要なものとなっています。家屋の冷暖房効率を改善するために重要な要素となるのが家屋からの熱の出入りに大きな役割を果たしている窓です。例えば,夏場には家屋内部へ外部から輸送される熱の実に7割以上が窓やドアなどの開口部を通り,冬場には家屋から外へ輸送される熱の6割が窓や開口部を通過しています。我々は窓ガラスに熱放射スペクトル制御技術を適用することで年間の冷暖房効率を向上させることが可能な省エネルギー窓ガラスを開発しています。

 夏場には太陽光が窓から屋内に入射することで屋内の温度が上昇します,そこで冷房効率を向上させるためには,まず概念図の高温状態で示しているように,太陽光を屋内に取り入れないことが重要となります。ただし全ての太陽光を取り入れなくしてしまいますと,鏡のように窓ガラスとしての機能がなくなりますので我々の目に捕らえることができる可視光だけは取り入れなければなりません。また,屋内の熱を屋外に向かって放出できるように該当する領域の赤外線を効率良く放出できる必要もあります。冬場はそれとは逆で,太陽光はできるだけたくさん屋内に取り入れ,屋内からの熱の放出をできるだけ防ぐ必要があります。さらに省エネルギー窓ガラスはこの二つの相反する特性が季節により自然と切り替わるものでなければなりません。

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熱循環応答型省エネルギー窓ガラスの概念図

 我々は夏場と冬場の20℃近い気温の違いに注目しました。現在までに様々な種類の酸化物が開発されています。その中には酸化バナジウムのように室温付近で相転移を引き起こし,それに伴い光学的な特性が大きく変わる酸化物が存在します。図に示したのは酸化バナジウム薄膜の紫外線から近赤外線領域の透過率の温度依存性ですが,薄膜の温度が28℃の時には赤外線領域の透過率が高く,薄膜の温度が上がると透過率が大きく減少する,すなわち反射率が高くなることがわかります。この酸化物を元に夏場の気温で相転移が起こる材料を開発し窓ガラスに用いれば夏場は太陽光の赤外線部分だけを屋内に取り入れず,冬場は全ての太陽光を屋内に取り入れ,かつ夏場と冬場で特性が切り替わる省エネルギー窓ガラスの開発が可能となります。この酸化バナジウム薄膜と熱放射スペクトル制御技術を組み合わせることで夏場と冬場で冷暖房効率を改善することができる熱環境応答型省エネルギー窓ガラスが開発できると我々は考え研究を行っています。   

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​酸化バナジウム薄膜透過率の温度依存症

 下に示すのが酸化バナジウムを元に38度付近で相転移が起こるようにした薄膜を使って試作した熱環境応答型省エネルギーガラスの外観とそのSEM画像になります。まだまだ大きさは小さく,エネルギーシステムとして評価するのは難しいのですが,大面積に効率よくこのような窓ガラスを作製するプロセスの研究なども行っております。

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​試作した熱応答型省エネルギーガラスの外観(左)とSEM画像(右)

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